ブレシア・聖ナザロ教会爆発事故

古代より、人間は神を恐れ、敬い、崇めてきた。
神が人間の手によって偶像化、あるいは劇画化される前、「神」とは自然的な存在であった。それは炎であり、風であり、雨であり、そして雷であった。だとしたらこの事故は、愚かなる人間に対する神の神罰だったのかもしれない。
１７６９年８月１８日、イタリアのヴェネチア近郊の都市ブレシアにてその悲劇が起こった。聖ナザロ教会に雷が落ちたのである。雷の性質上、これは別に珍しいことではない。雷は特性として高い場所に良く落ちる。中世ヨーロッパにおいてもっとも高い建物は大抵が教会だったため、必然的に教会に雷が落ちたのだ。そのため、過去の事例として時刻にあわせて鐘を鳴らす鐘係が落雷を受けて命を落とすことが多々あったようだが、その日、聖ナザロ教会に落ちた雷はまるで神の怒りのごとく破壊をもたらした。
なんと、聖ナザロ教会が大爆発を起こしたのだ。紅蓮の炎が黒煙をまとって膨張し、衝撃波が都市全体を襲う。この大爆発によってブレシアの六分の一の面積が破壊され、３０００人もの死者を出す大惨事となってしまった。
いったい、なぜこんなことになってしまったのか。理由は、聖ナザロ教会に軍需物資である８０トンもの火薬が保管されていたからである。それに落雷によって火がつき、爆発したのだ。
教会になぜこんな物騒な物が保管されていたかというと、「神のご加護があれば安全だ」というとんでもない理由からである。なんと、当時の聖職者たちは神のご加護があれば災厄は回避できる、回避できないのは信仰と敬虔が足りないからだ、と本気で考えていたようで、物事を深く考えていなかったらしい。結果、どうやら信仰と敬虔が足りなかったようで、神の怒りが聖ナザロ教会に降り注いだというわけだ。あるいは、戦いの道具である火薬を教会に置いたことに対する天罰だったのかもしれない。
とはいえ、この事故は神の怒りではなくれっきとした人災である。人災であるからには対策も立てれるというもので、ローマカトリック教会ではこの事件以降、各教会の尖塔に避雷針を立てるようになったという。